Dear

曇り空の下に広がる優しい人の営み
敷地は石川県金沢市の郊外で、昔は見渡すかぎりの田んぼが続き、風が可視化されるような場所であったが、今では、人気の住宅地で整然と碁盤の目に区画された角地に敷地がある。
東西の通りは、すぐ脇が行き止まりのため交通量が少なく、南北の通りはそれに比べて多い。そんな場所に、アトリエ兼住宅を新築するプロジェクトである。
アトリエは、交通量の多い南北の通りからアプローチし、来客用の駐車スペースを設けた。住宅は交通量の少ない東西の道路に向けて開きながら、そちらからアプローチすることとした。すると建物は自然と敷地に対して対角の位置に建つ。南北からのアトリエへのアプローチと東西からの住宅へのアプローチを建物の中で交じりあわせることで、南と西をつなぐトンネルができた。 

アトリエを人の目の触れやすい敷地の角に設けると、リビングへの南の採光を確保するためにアプローチを広げ、さらに高さを取るために2階の床レベルをグイッと持ち上げることで、住宅のアプローチは南側に大きな家型の開口を設けることとなった。これにより、雨の多い金沢でも庇の下の大きな空間で、リビングとひとつながりになって、風を纏いながら外部と内部との中間領域ができる。貴重な晴れ間や小雨、夏と冬の間の短い期間、目いっぱい楽しめる空間を設けた。

対角に目一杯とったボリュームに対して、面積が足りない分を階段室やトイレなどを暮らしの中心となる部分から外に放り出すことで、主要なボリュームを脇から支える構造としている。 

そうして、、、
1階のLDKと繋がるポーチ、そしてアトリエの空間が街の中で縁側的に使われることを想定し(公共性) 、2階にはセカンドリビングを設けている(私有性) 。セカンドリビングと個の居場所となるスペースとの間は、片側は間仕切り壁だが、もう片方は、1階のLDKの採光を確保するために引き上げた天井がそのまま丘になり、丘によって、ゆるりと隔てられている。
中心となるボリュームの屋根をできるだけ低く抑え、道路から屋根面が見えるようにすることで、街に対して敬意を払う。角地に緑をたくさん植えることで、周辺の魅力への配慮とする。LDKが道に開くことで街は明るくなり、特に雪の積もった冬には暖かな光が道に反射し街自体を明るくする。ここにこの建築が建ち、家族が住まうことで、より街の魅力が高まり、街の人に愛でられ、ここに住まう家族だけなく、街にまで人の交流や優しさが広がることを目指した。